体を動かし続けるために必要なエネルギー(ATP)はどうやって作られるか解説

このブログを読みに来ていただいている皆様は、「速いスピードで長時間にわたり、走る・漕ぐ・泳ぐ能力を高めたい」と思っている方がほとんどでしょう。

人間が運動を続ける(=筋を収縮させ続ける)ためにはATP(Adenosine tri-phosphate:アデノシン3リン酸)が必要で、体の中でATPを作り続けなければなりません。

今回はATPを作るメカニズムについて、できるだけ分かりやすく説明します。

練習やレースのときに自分の体で何が起きているのか理解することで、練習やレースで意識すべきことが分かり、練習の効果は上がりレースのコントロールもうまくいきます。

ナマケモノ
ナマケモノ

ナマケモノは理学療法士養成校で学生にATPの話をよくしています。

いつもよりさらに分かりやすく説明します。

小難しい話は省略していますので、詳しい説明が欲しい方には物足らないかもしれません。

この記事を読むと
  • 体を動かし続けるために必要なエネルギー(ATP)について知ることができる。
  • 速いスピードで長時間にわたり、走る(漕ぐ、泳ぐ)ために必要なことが分かる。
  • トレーニング時の意識が変わるので、より効果的な練習が行え、効率よく成長できる。
  • レース時の意識が変わるので、よりよいレース運びができる。
self-introduction

そもそも、体が動く現象はどのように起きているのか

まずは人の体がどのようにして動くのかの説明をしましょう。

体を動かすには筋が必要ということは、皆さんご存じと思います。
この筋は、基本的に骨に付着しています。

1つの筋が付着する場所は、最低でも2か所です。

しかも異なる骨に付着しています。

その状態で筋が収縮する(長さが短くなる)と、2つの骨を引き寄せることになります。
これにより、骨が動く、つまり体が動くのです。

人間の体は操り人形と同じ仕組みで動いています。

Wooden mannequin are both remote controlled like puppets

筋はどのようにして収縮する(長さが短くなる)のか

筋を細かく分解していくと、最小の単位は「筋原線維」になります。
この筋原線維は「アクチン」「ミオシン」の2種類で構成されています。

「ミオシン」には頭部とよばれる部分があって、これが「アクチン」に結合します。
結合した状態でエネルギーを利用してミオシンの頭部が動くと、アクチンを引き寄せることになります。
これにより筋原線維の長さが変わり、筋全体が短くなるのです。

ATPがエネルギーを生み出す仕組み

筋の収縮に必要なエネルギーを生み出すのがATP(アデノシンさんリン酸)です。
アデノシンにリン酸が3つ結合しているという、そのままの名前です。
ATPを分解するとADP(アデノシンリン酸)とリン酸になるのですが、このときにエネルギーが発生します。

ATPが全てADPに変化してATPが無くなってしまったらエネルギーを生み出せなくなります。
こうなると運動を続けれられません。

体の中に蓄えられるATPは非常に少ないので、ほんの数秒運動しただけでATPはなくなってしまいます。

ATPは再合成することが可能

エネルギーを発生させたときに生じたADP、これを再利用してATPを再合成することが可能です。

再合成したATPからまたエネルギーを生み出して、運動を続けることができるのです。
ATP再合成システムは3つあります。

クレアチンリン酸系

100m走など全力で体を動かすときにはATPが猛スピードで分解されていきます。

このとき、それにも負けない猛スピードでATPを再合成してくれるのがクレアチンリン酸です。
クレアチンリン酸を分解したときに発生するエネルギーを利用してATPを再合成します。
ただし、全力で体を動かすとおよそ7〜8秒でクレアチンリン酸もなくなってしまうので、ATP再合成はストップしてしまいます。

解糖系

体内の糖質(グリコーゲン、グルコース)を利用することでATPを再合成できます。

解糖系のATP再合成スピードは、クレアチンリン酸より遅いです。
しかし、比較的速く、そしてクレアチンリン酸よりは長くATPを再合成できます。
その再合成持続時間は、全力で体を動かしたときに32~33秒ほどと言われています。

解糖系でATPを再合成すると、ピルビン酸というものが発生します。
ピルビン酸が増えすぎると、皆さんもご存じの乳酸が発生します。
この乳酸、役に立たない疲労物質ではありません。

ピルビン酸の量が減ると、乳酸はピルビン酸に戻ります。
そして、ピルビン酸は次で説明する有酸素系で利用されるのです。

有酸素系

呼吸で取り込んだ酸素と、体に蓄えてある脂肪&ピルビン酸を利用することでATPを再合成できます。
酸素を利用するので有酸素系と言われています。

あまりに複雑で、簡略化すると真実が歪んで伝わりそうになるので図は載せません。

有酸素系によるATP再合成スピードは、クレアチンリン酸系と解糖系より遅いです。
しかし有酸素系には他に真似できないすごいところがあります。
酸素が十分に供給され、体内の脂肪や糖質が無くならない限り、理論上は無限にATPの再合成が可能なことです。

走るときの3つのATP再合成システムの働き方

3つのATP再合成のシステムがどのように働くのか、ランニングを例に説明します。

引用:勝田 茂(2015)『入門運動生理学 第4版』杏林書院
原典:FOX E(1979)『Sports Physiology』Saunders Company 

全力疾走

全力疾走で分解されたATPを高速で再合成してくれるのはクレアチンリン酸系です。
クレアチンリン酸が7〜8秒でなくなった後、解糖系が頑張ってくれます。
そして、筋内に貯蔵した糖質が32~33秒ほどでなくなると、あとは有酸素系のみです。
有酸素系はATPの再合成スピードが遅く、筋疲労も起きてくるためスピードを維持することが困難になります。

このような仕組みになっているので、高負荷の運動を長時間続けることは不可能なのです。

ゆっくりジョギング

とてもゆっくりとしたジョギングなど、低負荷の運動であればATPの分解スピードは遅くなります。
ATP分解にATP再合成が間に合うため長時間の運動が可能です。
その際に主に活躍するのは有酸素系です。
低負荷の運動に必要なATPは、有酸素系だけでほとんど再合成できます。

クレアチンリン酸系もジョギング中に少しは使われますが、徐々に回復します。
ジョギング中にクレアチンリン酸がなくなってスピードが落ちるということは起きません。

解糖系もジョギング中に僅かに使われますが、必要なATPは有酸素系で再合成されているので、糖質がすぐになくなることはありません。

中等度のスピードのランニング

中等度のスピードのランニングでは、重要なポイントがあります。
低負荷の運動からだんだんスピードを上げていく場合、あるスピードを超えると有酸素系ではATP分解にATP再合成が追いつかなくなります。
そうすると、解糖系やクレアチンリン酸系、つまり「無酸素系」の利用が増えます。
このときの運動負荷をATポイント(嫌気性代謝閾値)といいます。

ATポイントを超えた運動負荷では糖質やクレアチンリン酸が消費されますが、糖質やクレアチンリン酸は貯蔵量が少なく、たくさん使うと短時間で枯渇してしまいます。
ATポイントを超えた高負荷の運動を長時間続けることはできません。

速いスピードで長時間にわたり、走る・漕ぐ・泳ぐために必要なこと

難しい内容が続きましたが、以上のことをまとめると、次のように言えます。

有酸素でのATP再合成能力が高くなれば、クレアチンリン酸や糖質をできるだけ利用せずに運動をできるので、速いスピードで長く運動できる(全身持久力が高い状態)

全身持久力を高めるためのトレーニングの適した強度・運動時間・頻度については、以下の記事でお伝えします。

ぜひ読んでいただいて、知識を練習に応用してください。

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